チクル妄想工房

サークル「小公園」の仮拠点です。ガムベースの作ったものを載せたり、他人の創作物への感想を書いたりしています。

たわしの話1(タイトル未定)

mixiの三題噺作成ツールで「たわし」が出たから書いてみた、たわしの話。

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 りつ子さんは僕をつかんだかと思うと痛いと叫んで壁に叩きつけた。僕を掴めば毛先で肌を傷つけてしまうのは小さなりつ子さんにはわからなかったのだ。僕は僕を壁に叩きつけたりつ子さんを怒ったりはしない。りつ子さんのお母さんもりつ子さんを怒ったりはしなかった。床に横たわった僕はりつ子さんの泣きわめく間じっとそこで水を滴らせているしかなかったが、やがてりつ子さんが泣きやむとお母さんが拾い上げて元のところに返してくれた。りつ子さんは恨みの目で僕を見据えていたのだが僕には目がないのでにらみ返してやることもできず無邪気な憎悪で犯され続けていた。洗いかけの靴はいつかお母さんの手によってもとの白さに近付くことだろう。りつ子さんに次に掴まえてもらえるのはいつになるかわからないことを思うとありもしない胸が張り裂けそうになるのだった。
 僕はりつ子さんや一郎君の普段履きを洗うのに使われている。りつ子さんも一郎君も毎日外で遊ぶから靴の中はすえたにおいがしたけれど、じきにそれもあの甘ったるい石鹸のにおいと変わらなくなった。僕にとってりつ子さんや一郎君は僕がこの家に必要不可欠であることの証人だった。僕はいわゆる柄付きの束子で、小ぶりな僕はりつ子さんや一郎君の靴ととても相性が良かった。僕は石鹸を吸いこみすえたにおいを嗅ぎながら摩擦され徐々に毛先をすり減らしてゆく。使われるのは愛する相棒たちが薄汚れた色素を帯び始めたころだったから出番は滅多になく、したがってこの家では弟の一郎君と同期の三年目だった。姉のりつ子さんは五歳で靴は一郎君よりも大きく洗うのにも時間がかかり僕はりつ子さんの靴のにおいを一郎君のそれよりも長く感じることになる。さらに長い時間嗅ぐのはお母さんでそれよりも長いのがお父さんだったが、去年に僕よりも一回り大きな柄付きの束子が買われてきたので僕の仕事は子供二人の靴だけになった。そういうわけで僕がにおいと言えるにおいを嗅ぐにあたって最も長時間嗅いでいるのはりつ子さんの靴のにおいということになる。男の僕にとって本来女性の靴のにおいを嗅ぐことは場合によっては至上の悦びにもなりうるが、いまのところりつ子さんは小さな子供なので性的興奮はなく散々走り回った証である酸っぱいにおいはどちらかといえば微笑ましさを感じさせる類のものであった。

続く

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思いつきで書き始めてみましたが続きます。