チクル妄想工房

サークル「小公園」の仮拠点です。ガムベースの作ったものを載せたり、他人の創作物への感想を書いたりしています。

シュタゲ20話見たんだがこれはすごい。本当にすごいんだがどうしよう

これはきついっすなぁ……。
まゆりを助けるためには、牧瀬紅莉栖を犠牲にしなくてはならない。
牧瀬紅莉栖は、元の世界線では岡部が彼女に会ったその日に死んじゃったから、本来なら、つまり、そこで彼女の死によって岡部たちと彼女が別れていれば、岡部はこんな残酷な選択を迫られることにはならなかった。牧瀬紅莉栖は岡部にとっても岡部の友人の誰にとってもそのときはまだ他人だったから。
岡部は(未来から)現在から過去に向かって時間軸を逆行してるけど、岡部の周りの人の記憶がなくなって、世界が昔の姿に戻ったとしても、岡部の記憶だけは消えることがない。全部元通りになるのに、岡部だけはリーディングシュタイナーによって、これまで未来で経験してきたことを背負い続ける。

岡部は誰かの望みをかなえるということを名目にして実験を繰り返してきた。SERNの機密に触れてしまうような研究であることを知りながら実験を繰り返し、身内を危険に巻き込んできた。牧瀬紅莉栖もそう。彼らの動機はただの知的好奇心だったのだろう。だがしかし、その結果がこれだよ。
岡部はまゆりの死を知り、それまで送ってきたDメールをひとつずつ取り消していくことになる。それは救ってきた人たちの、せっかく叶った望みを潰していくということ。まゆりを救うために、深く考えずに叶えてきた他人の願いを、やっぱりやめますゴメンネと言わんばかりになかったことにしていく。これは、罪だと思う。大切な誰かの命を救うために、やむなくそうすることになったのだとしても。父を奪われた少女が取り戻した父の温もりを再び奪うことが、少女から二度父を奪うことが罪でないとどうして言えるだろう。少女の恋心を消し去ってしてしまうことが、少女の気持ちを踏みにじる行為でないとどうして言えるだろうか。はっきり言ってしまうと、岡部は救いようのない極悪人です。彼に悪意はなかったかもしれない、少女たちは今が偽りの今だと納得し、いや自分に言い聞かせて岡部の行動に確かに同意したかもしれない。でも岡部がやったことは人としてあるまじきことです。誰かに希望を与えておきながら、彼の勝手な都合によってそれを再び奪い去ってしまうことは罪です。彼女らの人生は岡部の自由にしていいものじゃない。

Dメールを取り消す寸前に、女の子たちが前の世界線の記憶を取り戻したことは、そのときは岡部の罪悪感を緩和してくれたでしょう。僕が前の記事に書いた「誰かに救いをほどこしても、当人が救われなかった世界を経験する可能性がゼロであれば、その人を救ったことにはならない」理屈を打ち崩す出来事でした。でもこの出来事は、のちに、岡部に自分がしてきたことを強く思い知らせることになるはずです。岡部は自分が見てきたこと、経験してきたこと……あるかもしれなかった未来、消してしまった大切な人たちの思い出、そういうものを全部自分が奪ってしまったのだという事実を一生忘れることはできない。罪を背負い続けるんです。彼自身の記憶によって。
すでにちょっとだけ書きましたが、以上の文章は、僕がこれまでの記事で書いてきた文章と矛盾しています。「当事者が望みの叶った状況と叶わなかった状況を両方とも経験できないならばその人を救ったことにはならない」。今回の記事に適用すれば、「当事者(Dメールを送った人たち)がDメールを送った記憶自体をなくしてしまう(Dメールを送った世界線そのものがなくなってしまう)ならば、Dメールを取り消す岡部の行為は罪にはならない」ということになる。現代社会においては、被害者がされたことを覚えていなければ加害者は罪には問われない、なんて馬鹿げた話が通用するわけがありません。「やった」という事実は残りますから社会的な断罪を避けることはできない。しかし、シュタインズゲートの物語では事情が違って、そもそも「まだ何も起きていない」のですから、歴史的に見ればたしかに彼は「まだ罪を犯していない」し、「これから罪を犯す」ということでもない。そういう意味では、岡部は誰も不幸にはしていないし、これからもしないし、彼には何の罪もないことになるかもしれない。少なくとも彼のしたことを罪に問うことのできる人は誰もいない。でも岡部自身は、自分のしたことをどうやっても忘れることはできないんです。岡部は未来を経験してきました。彼のしたことが今現在の世界において罪であろうがなかろうが、否応なしに彼は自分のしたことに対して責任を負わされるんです。それが彼に対する世界からの罰なんです。
もっと根本的な問題がありますね。時間を逆行し過去を、そして未来を変えることが人間に許されることなのかどうか、どうでしょう。動機はどうあれ、時間を遡行するというのは、もしかしたらとんでもない罪業なのかもしれませんな。阿万音鈴羽もある世界線では過去の中で孤独に死んでしまった。岡部も鈴羽も罰を受けたのかもしれないね。この話題がこの物語の文脈で深く語られることはないだろうと予想しますが。
そもそも、誰も関知できないところで誰かの人生を左右しよう、なんてことが罪なんですよ。岡部以外の人はひとつの世界線しか経験できないから、岡部の過去改変行為は他人の人生の救済にも侵害にもあたらない。理屈ではそうなんだと思います。自分で書きましたし(論理の間違いに気付いたら撤回するけど)。でも許されないことなんですよ。誰にも認知できないからこそ、人間の領分を超えている。それは他人の尊厳を無視し、好き勝手に自分のモノのように人生をいじくるということ。神のみに許された仕事です。(物語における役割としては作者とかゲームマスターとか言われるところでしょうか)。ああ、岡部は神になってしまったんです。僕が神だ、みたいな。傲慢極まりない。そうだ、僕がキラだ。
いや岡部は頑張ったと思うけれどね。でも、やっちゃったんだからしょうがないんですよ。



次回以降がどうなるかわかりませんけれど、今話までの流れからしてみるとこういう話になってんかなと思いますね。岡部は過ちを犯し(過去改変によって世界線を変えてしまって)、その罪を償ったのち(自分のせいで変わってしまった未来(現在)をもとあった姿に戻して)、己の過ちの証として罰(経験してきた未来の記憶)を背負うことになる。