チクル妄想工房

サークル「小公園」の仮拠点です。ガムベースの作ったものを載せたり、他人の創作物への感想を書いたりしています。

アイマス20話よかったじゃないですか

 アイマス20話。感想を書かずにはいられない!
 千早回。いや春香回?
 アニマスでは千早と春香はセット扱いみたいですね。開始当初からそうです。
 主に千早回の4話、春香回の11話ですが、それ以外の回でもさりげなく春香と千早は二人でいたり、会話をしていたりすることが多いです。1話でも何回か、5話では砂浜や客間の窓辺や寝床で、12話のラストでもちょっと。たぶん他にも。春香はそうじゃないですが、千早はあんまり他の子と話をしてないんじゃないでしょうか。貴音と美希くらいかな。千早は意味のない会話を避けていますね。彼女の性格ゆえでしょうけど。春香はそうではない。まあ、春香も基本的に馬鹿話はしないんですが。
 千早と春香がくっついてることが多いってのは、春香が千早に常に気を払ってるんですね。千早を春香はいつも横目で見てます、視聴者的に結構露骨に見てますw 千早も春香が気遣ってくれているのをわかってるみたいで、色々二人で話をしたりなんだりするうちに、春香に心を許すようになる。11話がそうです。11話では一人で歌の練習をする春香に千早から声をかけてアドバイスしている場面が見られました。そして、家にやってきた春香と結構深い話をします。千早と春香の仲は確実に縮まっています。
 でも千早には大きなトラウマがあったんですね。アイマスは基本的にアイドルたちのトラウマとかコンプレックスを処理、解消していく物語です。それは彼女たちがアイドルを目指そうとした動機に繋がっています(やっと1話の重要性に気付きました)。今話だけで話をするのは難しそうなのでこれまでの経緯も絡めて書いていきます。



 はるちは第1回は4話ですが、歌以外の仕事も積極的にやっていこう、みたいな話で、千早が歌に関して何か大きいものを抱えているらしいことが示された回でした。そして千早と春香との距離が大きく縮まったことと思います。あとはポニテ千早の笑顔が印象的でしたね、後半の千早はマジで可愛かった。4話は千早激萌え回でした。そのあとの5話でははるちはの仲のよさが存分に描かれてましたね。春香が千早の服を無理やり脱がせたり。他に誰が千早にそんなことをするでしょうか! 一緒に線香花火したり。窓辺で語り合ったり。寝床でも話を(可哀そうなことに千早は途中で話から追い出されたけれど)。
 物語が一気に進展したのはやはり11話ですね。練習が滞っているときの「まだまだこれからだよ」という春香の言葉に千早が呼応する、っていうシーンも些細なところですが、率先して何かを言うことってあんまりない子ですので珍しい。練習中にぶつかったやよいに対しては「ごめんなさい」に対して「いいえ、こちらこそ」だけです。春香さん以外の他の子にはまだそんな感じ。記者の「春香君のいい意味で楽天的なところは〜」のセリフを千早はドアの陰から聞いています。他の子と一緒にではなく、励まされる当事者ではないところに立って、楽天的な性格で仲間を励ますことのできる春香を見ている。春香は実はとても頑張っています。春香の楽天的なところは、彼女も口にしていますが、努力を前提にしてるんです。そういったただ単にお気楽な性格なのではないことを千早はちゃんと見て知っています。千早は歌に対して他のアイドルとは少し違った思いを持っていて、猛烈な努力をしているから、春香の真剣さが響いていたのではないでしょうか。それに春香がいつも自分を気にかけてくれていることを知っていて、それによって励まされていると千早は感じているのでしょう。だから春香の自主レッスンにもすすんで付き合います。そのあと、家に帰れなくなった春香が千早の家にお泊りすることになります。千早の部屋は引っ越しの荷物にも手を付けていない殺風景な部屋で、千早はいつもそこで一人でご飯を食べていたわけですが、この日は春香が来たことで一人ではない夕食になりました。そこで「春香はどうしてアイドルになろうと思ったの」と訊きます。千早自身は「アイドル」になる積極的な動機を持っていません。前期OPのホワイトボードにも「アイドルには興味ありません。世界的な歌手を目指したいかと。」と書いているように、千早が仕事を続ける目的は歌にしかありません。僕の想像力が足りなくて千早が春香にどうしてアイドルになろうと思ったのかを訊いた理由はわかんないんですが、歌のことしか考えていなかった千早が歌以外のことに興味を持った、春香のことを知りたいと思ったってことは言えるでしょう。この時点では視聴者はそれとなく察することができるだけなのですが、千早と春香の対照的なところはこの「動機」です。春香さんは「憧れ」というお気楽主人公テンプレ設定(ゲームからの引用のせいでしょうけれど)、一方で千早は、20話で示されることですが、かなり重い過去を持っていて、それが彼女の歌う理由になっています。
 12話、13話で、春香と話をしたことによる千早の変化が垣間見られます。12話では、戻ってきた美希に千早が一喝するシーンがありました。千早は仲間に対して本気の言葉を向けることができるようになった。というより自分から口出しするようになったこと自体がすごいことですよね。美希が最初に謝ったとき千早だけが真剣な顔をしていて、春香さんが言ったようにやっぱ怒ってたんですけど、そこは千早がライブに対してそこまで真剣だったということなんでしょう。ところで、美希に対するここでの春香さんの対応として、「別に何も気にしてないし、だからもう……」という「とりあえず平和に収めよう」みたいな態度は、20話でもちょっと問題になります。春香さんはいつでも何に対しても真摯に向き合って、真面目だし嘘はつかないし、非常に気配りもできるんですけど、「誰かに対して強いことが言えない」んです。さて、13話ではライブがトラブルに見舞われて混乱する皆を、千早はとりなそうとします。周囲に対して積極的に働きかけるようになったのは、彼女にとっては大きな前進だと思います。そして、美希の頑張りに触発されて、いっそう気合いの入った千早でした。次の14話は、前半は物語を止めてライブ後の状況を解説、後半は961の本格的な登場でした。この回でも、千早が春香に歌について熱く語るというシーンがありました。



 そして今回の20話。14話以降、千早の過去は何度もあまりにも白々しくほのめかされていましたが、ここにきてようやくといった感じです。19話で千早は自分の過去を黒井社長にほじくり返されて、トラウマが蘇って歌が歌えなくなってしまいました。
 千早の過去の暴露記事を真が(感情込めてw)読み上げるシーンで始まります。この事情は視聴者はもちろん、アイドルたちも初めて知ります。11話で春香さんは、千早の両親が離婚したことを知っているようでした。千早の暗い性格の原因はここにあります。もしかしたら春香さんが千早にやたらかまっていたのは、初めは同情だったのかもしれない、と思ったりもします。孤立している子がいたら声をかけて仲良くしてあげる。いわゆる誰にでも優しい気の利く優等生を、地で突き進む子なのかもしれない。他のアイドルたちはみんな結構ワイワイやってるのに、千早はその性格ゆえワイワイした空気に溶け込もうとしなかった。そんな千早を見かねて声をかけた。ということを無意識でやってたんじゃないかなあ。でも、春香さんが知っていたのは離婚したという事実だけだったと思います。11話でも春香さんは、千早の家庭のことをちょっと話題にしはしますが、追及するのは止めています。それが、ここにきて暴露されてしまったわけですね。とても辛い過去をひどい形で。記者に追われる千早をかばうのはPと、ここでも春香さんです。
 レッスン(ここでも春香が同伴)のシーンで千早の楽譜が映し出されますが、相当な書き込みようです。表現者、アーティストとしての千早の真摯な姿勢が伺えます。11話に春香の楽譜がちらりと映るんですが、千早のものと比較してみると、ほとんど書き込まれてないことがわかります。他のアイドルも春香と似たようなものでしょう。歌に対する千早のこだわりはすごいものがある(尊敬に値します)。それから千早はPと春香に付き添われて病院へ。Pはプロデューサーとしてですが、春香は仲間として、友達として付いていきます。
 三人で公園にいる場面で、千早が歌を歌う理由が明らかになります。千早は交通事故で死んでしまった弟のために歌っていたんですね。まあ前フリがめちゃめちゃ多くてしかも直接的だったので嫌でも想像させられたことですが。弟は千早の歌が好きで、千早にとってはたった一人の観客だった。死んでしまった弟のために、自分が死なせてしまった弟のために歌い続けないといけない、その一心でアイドル活動を続けてきたのです。アイドルとして目の前のファンのために歌いながらも、心の奥深くでは弟に聴かせているという思いがいつもあったのでしょう。アイドルを辞めると言い出した千早をPは引き止めはしますが、どうもPは、「歌えない」という表面的な症状が心の傷を表していて、歌えるようになればそれが癒えたのだと、そう判断しそうな様子でした。本当に重要なのはとりあえず歌が歌えるようになることではなくて、弟の事件に千早なりにけりをつけることなのですが。弟の事件にけりをつけるということは千早の歌に対する考え方を変えてやることであって、そのことを春香さんはPとは違ってきちんとわかっていることが後に示されます。そこで、春香が歌に対して千早とは対照的ともいえる考え方を持っていることがポイントになってきたりします。
 「生っすか!?サンデー」収録シーンのあと、店頭テレビ、電車の吊り広告、新聞の記事、雑誌に書かれた千早の事件が映りますが、おそらく春香さんの視点でしょう。売店の前から立ち去る春香さんの、千早の過去を面白おかしく取り上げるニュースに対する怒りでも悲しみでもない表情。世間で色々と騒がれているというそのことよりも、千早が本当に戦って苦しんでいることは千早自身の過去だと春香さんはわかっている。だから春香さんは雑誌の記者や961プロに怒りを露わにすることではなく、千早の苦しみを少しでも和らげることをしようと考える。
 千早の家に向かい、インターホン越しに千早と話をします。千早の部屋は4話から変わっておらず段ボールは開封されず積まれたまま。4話や11話、さらに12話と13話のライブ回を通しても千早の根っこの深い部分は変わらなかったわけです。それほどに傷は深い。春香はダンスのレッスンにいこう、プレゼントがあるよ、と誘いますが千早は応えない。すると今度は「歌が好きだから、自分が歌いたいから歌うんじゃ駄目なのかなあ」と。千早は「今更そんな風には考えられないわ」と。ずっと変わらなかった、歌に対する二人の考え方の違いが、千早の因縁を伴って立ち現れました。「自分が好きだから歌う」とは春香さんがずっとそうやって歌ってきたから言えた言葉ですし、他の誰にも言えなかった言葉でしょうし、千早を救う手立てにもなりえるでしょう。そのことを春香さんも分かっているから口に出したんでしょう。けれど千早にとっては、長い間抱えてきた問題を急に割り切ってしまうことはできない。さらに春香さんは畳み掛けるように「気持ちが楽だよ」「一緒に歌えれば私達も嬉しい」、そしてついに「天国の弟さんも」とちょっと無神経なことを言ってしまった。千早は自分のことをどうこう言われるのは許せるけれど、弟のことまで知った口をきかれるのは耐えられなかった。だから「ゆうの何がわかるのよ、おせっかいはやめて」と。春香さんの言葉は本音だったのかもしれませんが、残念ながら綺麗事でした。計算ずくなのが見え見えなんです。春香さんはこれまで、誰も傷つかないでみんな笑顔のまま平和に解決しよう、という姿勢を通してきました。12話での美希に対するお人よしな態度も、14話の表紙差し替え事件で961プロに不満をもらすばかりの仲間たちに対してなかなか言葉が出ず、言いたかったことを美希に代わりに言われてしまったことも、それゆえです。だからここで、千早に対してもつい同じやり方で接してしまった。結果、千早を励ますことはできず、そればかりか千早の感情を逆なでしてしまいました。
 この場面、二人はインターホン越しに会話していて、視聴者は常にどちらか一方、映っている側の視点に立って、そちら側の主観で物語を見ることになります。聞こえてくる相手の声は機械の声です。春香には千早の声は触れることのできない場所からの声で、まったく近寄ってくれる様子が感じられない。千早にとって春香の声は、言っていることはまるで綺麗事だし、肉声ではない機械の声としてしか聞こえてこず、気持ちが伝わってこない。といった、相手の言葉に対する二人の感じ方を表現しているのだと思います。また、春香さんはまだ心からの言葉を言えていないし、二人の距離は生の声が届かないほどに開いている。「インターホン越しの会話」というシチュエーション自体、そういう比喩でもあるでしょう。
 そのあと春香さんは偶然千早の母親と会います。弟さんのお絵かき帳を受け取りますが、言うだろうな言うだろうな、と思ったらやっぱり言ってしまった「私じゃ駄目だったんです」と。千早に「おせっかいはやめて」と拒まれてしまったことで、自分のおせっかいは実はみんなにとって迷惑だったのではないか、と不安になってしまう。何となく馬鹿っぽかった「頑張ればなんとかなる」という励まし、僕は春香さんが実践してきた信条のようなものだと思ってるんですが、今回、信じていた友達から強い拒絶を受けて、はじめて「もしかしたら、何とかならないかもしれない」とよぎったのかもしれないですね。頑張っても何とかならないこともあるかもしれない、と。春香さんは「とにかく頑張ればなんとかなる」ことや、「もし何とかならなくても次のチャンスがある」ことばかり経験してきたのではないでしょうか。今話における「千早を励ます」ことは春香さんにとってそうではなかった。自分の声がどうやっても届かない、けれど失敗して千早を失うわけにはいかない。春香さんにとってもぎりぎりの状況だったんです。千早の家をあとにしたのち、春香だんは千早の母親と話をして、千早と母親との間に埋めがたい溝があることを、自分の干渉できない事情があることを知りました。このとき春香さんは、もしかしたら自分のおせっかいはそうした各人の事情を無視した無神経な努力の強制だったのではないか、そんなふうに感じたのではないでしょうか。それぞれ事情があるのに自分はただ「頑張ろう」とばかり。今まで自分が「頑張れ」と応援してきた人たちの抱えていた事情が、千早と母親のことのようにどうにも克服できないことであったり、春香には関係のない、他人に介入して欲しくないことだったりしたかもしれなかったのに。その不安をPに相談すると、人を励ますのに遠慮はいらない、全力でぶつかっていけ、と励まされます。
 弟さんのお絵かき帳には笑顔で歌う千早が描かれていました。小さいころ千早は歌うことを楽しんでいたのですね。ですが美希も言っていましたし、春香さんもお絵かき帳を見て感じていたことですが、いまの千早は絵のように楽しそうに歌うことがない。アイドルとしてファンの前でただ笑顔で歌うということではなく、千早自身が歌うことを楽しんでいないということです。千早は弟の死に責任を感じて歌を弟への贖罪としてしまっています。歌うたびに自分が弟を死なせたということを思い出していたのだとしたら辛いことですが、千早はそうしなければならなかった。でも、千早が本当に歌を好きでなくなったのかというとそうではなくて、14話で春香と歌の仕事のことで語り合うシーンで千早はとてもいい笑顔をしていたように、千早はいまでも歌が大好きなんです。弟のため「だけ」に歌っていたわけではない。千早自身がそのことに気付くだけでよかったんですけれど、長年引きずってきたことを簡単には払拭できないですよね。いざ歌うときになると弟のことを思いだしてしまうのでしょう。
 春香はもう一度千早の家に行き、今度はインターホン越しではなく、ドア越しに話しをします。一度目は機械を通してで、今回は直接の声なんです。インターホンを使わず自分の声を直接伝えたいという春香の決意の表れでもあるし、春香が心からの言葉を伝えようとしたことを表してもいます。春香の「ほっとかない。ほっとかないよ」の言い方は胸に響きました。いままでに春香さんがあれほど強い語調で話したことがあったでしょうか。視点は千早に移って、ドアの向こうから春香さんの声が響いてきます。「私が」千早ちゃんと歌いたい、「私が」千早ちゃんと仕事がしたい。おせっかいだってわかってるけれど、「私が」千早ちゃんにアイドルを続けて欲しい。春香はこれまで「私が」という主張をしませんでした。一回目の訪問でも「みんなが」「千早ちゃんが」「弟さんが」です。それは春香のいいところのひとつだったのですが、千早に自分の気持ちを届けるには「私が」という言葉が必要だった。おせっかいだってわかっている、という言葉が聞けますが、春香さんはこれまで「自意識」というものが極端に欠けていた。それがPと話をしたことで、自分自身のありようをしっかりと見つめ、受け入れながら、前向きに突き進む覚悟ができるようになった。他のアイドルたちをみると自意識の強い子が多いですよね(千早もちと特殊な自意識ですが、ある意味でそうですね)(というかアイドルやる子なんて大概自意識強いんじゃないのっていうのは偏見でしょうか)。春香さんは弟さんのお絵かき帳と、みんなで作った歌の歌詞とCDをポストに入れて帰ってしまいますが、千早がきっと真剣に聴いてくれると信じていたからです。弟さんは千早の歌が好きだっただけではなくて、笑顔で歌っている千早のことが好きだったんじゃないかな、と春香さん。それは千早が失くしてしまった、というより自分から捨ててしまったものです。弟さんが書いた絵の中の女の子みたいに笑顔になって欲しい、というのは、笑顔で歌って欲しいってことでしょう。弟さんのことで苦しみながら歌うのはやめてほしい。千早は歌が歌えない状況から立ち直るだけではなく、笑って歌えるようになる、弟の事故の記憶を乗り越えて千早はこれから先歌うことを楽しめるようになる。そんな予感を感じさせてくれるシーンです。
 20話を何度目かに見たときに感動したのは、前半と後半に一度ずつある、二人が会話する場面です。インターホン越しに会話するというシチュエーションはよく使われますが、この話での使い方や表現は非常に上手いと思います。二人のドア越しの会話のシーンはいわゆる繰り返しによる対比構造で、「インターホンを通して」の会話から「ドア越しに直接」への変化が、春香さんの心情や会話をする二人の距離の変化を表している。この場面で成長していることが描かれていたのは千早ではなく春香さんでした。視点も主に春香さんにありましたし、その辺から20話は春香回でもあったと感じます。11話も同様に観察対象として春香をクローズアップしていた一方で、視点は千早にあることが多く、千早回とも言える回でした。20話と11話はともに春香と千早がメインの回ですが、どちらの主観で物語を眺めるかという点で対比されている気がします。
 定例ライブで千早と春香が語らうシーンはしんみりしててよかったですね。百合っぽくて!「歌いたいって思ったの。みんなの作ってくれた歌詞とゆうの絵を見たとき、笑えるのか、歌えるようになるのかもわからないけど、もう一度やってみようって思えたの」 そして「ありがとう」と春香さんに感謝の言葉を言います。千早が戻ってきたのはみんなの応援に対する義務感からだけではなくて、「歌いたい」と思ったからでもある。歌えないことは千早にとっても辛いことなんです。だからあんな可愛い顔で「ありがとう」って言ったんですね。
 ステージの上で声が出なくなってしまった千早に、アイドルたちが傍に立って歌ってくれる。『約束』は元々みんなが千早のために作った歌です。千早が弟のために歌っていたように、仲間たちが千早のために歌ってくれている。千早の立場が歌ってあげる側から歌ってもらう側に転換し、気づきます。誰かのために歌うとしても、千早はみんなみたいに、笑顔で誰かを励まそうとして歌っていたわけではなかった。弟の事件を罪に感じて自分を罰していただけなんですね。子供時代の自分と手を取って歌う。歌うことが楽しかったころの自分を取り戻すって感じでしょうか。涙を流しながら笑顔で歌う千早に、客席の向こうから弟が笑って手を振ってくれました。もう弟の死への罪を背負いながら歌う必要はないんです。千早には仲間が必要だったのかもしれません。暗くなってしまうのも一人で思い悩んでしまうからで、春香たち仲間が一緒に頑張ってくれるならば、千早はこれからも笑顔で歌うことができるでしょう。千早がそうしたいなら765プロのみんなのために歌うこともできます。おせっかいな春香さんのおかげです。



 長えよ