チクル妄想工房

サークル「小公園」の仮拠点です。ガムベースの作ったものを載せたり、他人の創作物への感想を書いたりしています。

『電波電波カプリッチョ!』

電波電波カプリッチョ!
 作者はなすびあん様です。

 だいぶ前にプレイしたもので、感想をちょっとだけ書いて放置していました。当初ブログに載せるつもりはなくて。何といいますか『やがて僕の訪れる公園』を書くことや書き終えたことで、ちょっとした心境の変化があったせいなのですが、それはそれとして。


 中二病じゃないと見えてこない世界がある! って感じですね。すごい作品。
 主人公はいわゆる「中二病」ですが、彼のように無自覚な中二病というのは、本人のなかに独自の「世界観」を作りあげます。中二病的な世界が「患者」の目に映るありのままの世界なのです。主人公は周囲の人間と同じ世界を、違う世界観をもって眺めているということです。世界を解釈する論理が違うってことです。だから他の人とは違うものが見えているんです。
 中二病というと、ガキだとか恥だとかいう印象を持ってしまいがちなのですが、そしてこの物語でも主人公は、主要登場人物である数人を除いて、周囲からあまりいい印象を持たれていないのですが(作者さんは無自覚にではなく、描きたいことがあって意図的にそうしているのです)、そこに起きている現象は、本当は、主人公頭オカシイとか単純にそういうことじゃなくて、「違う世界が見えている」ということなんですね。よくわからない電波用語はマクガフィンです。
 主人公は、普通の目を持つ人なら絶対に飛び越せない壁も、やすやすと越えられる。反対に、普通の人なら何でもないものを、巨大な障害と感じることもある。彼の生きている世界はそういう世界です。

 主人公はまれに見る熱い正義漢です。中二病で正義漢というといかにも暑苦しいし、実際に彼は暑苦しいです。主人公にとっての正義は、他者から見ると二種類あって、中二病に由来する意味不明な正義と、中二病とかどうとか以前にある「人としての(とは言っても結局のところ主人公にとっての正義にすぎないのですが、それでも多数から(少なくとも物語内の多数から)賛同を得られる普遍的な)」正義です。だから主人公は、普段は中二病的に意味不明にふるまっていても、大事なところでみんなの心を打つような熱い言葉を吐ける。彼の正義は決して世の中の倫理に反せず、それどころか、中二病患者特有の世界観によって、私たちが中二病を脱する過程で忘れてしまっていた色々なものを浮かび上がらせてくれるんです。主人公の正義感に基づいた真っ直ぐすぎる行動が、カタルシスをもたらしてくれます。
 この作品における中二病論、あるいは作者の中二病観に関しては、僕が書くよりも作品を実際にプレイしたほうがいいと思うので割愛します。主人公が中二病である理由について直接的に語られるシーンがありますが、その短い部分からも、もちろん作品全体からも、作者さんが中二病について真剣に考察して書いていることが伝わってきます。

 ルートは二つあって、どちらのルートも素晴らしい。プレイ時間は計ってないのでよくわかりませんが、結構長めです。でも得られるもののとても多い作品でしょう。一部の人が期待するであろう「キャラクターの描写」というものも、おそらく、かなり優れているんじゃないでしょうか。
 感情を揺さぶってくれる純粋に楽しめる作品であると同時に、中二病的な語りという手法を通して「いかに語るか」ということの重要さを教えてくれる、いい作品だと思います。
 やってみて決して損はしない、ぜひプレイすべき、と書いてしまいたい。ちょっと僕は、これほんと、大絶賛します。やるべき。