チクル妄想工房

ガムベースの作ったものを載せたり、他人の創作物への感想を書いたりしています。

養殖少女にうってつけの日

タイトルの通りサリンジャーの某作品のパロディです。
連作の第一章になる予定でしたが、つまり、だいたい九本くらい書くつもりだったのですが、長い間放りっぱなしになっていましたので、アゲちゃいます。


【養殖少女にうってつけの日

 その晩、海沿いのホテルには、見たところ小学校低学年から中学生くらいの女の子が九十七人も泊り込んでいて、そのうちのひとりであるリデルは、うっかり切らしてしまった煙草を買いに最寄りのコンビニへ向かおうと、九階の客室からロビーまで下りてきたところだった。キャミソールにデニムのハーフパンツとビーチサンダルという夏らしいラフな格好で、財布と携帯電話と、彼から結婚記念にもらった腕時計だけ身に着けて。ロビーには小学校中学年ほどの女の子が三人、バスタブ二個分くらいの小さな噴水を挟んで設えられたソファの片側に並んで座っていた。無人であれば波音がはっきり聞こえるほど静かなはずのロビーは、彼女たちの騒々しい笑い声で満たされ、風情のかけらなどこれっぽっちもなかった。リデルは受付に部屋のカギを預けると、耳障りな声を立てる女の子たちのほうに目を向けないようにして自動ドアをくぐり、外へ出た。雲一つない空に月が綺麗な真ん丸をしていて、砂浜の向こうに広がる海はミルクを垂らしたコーヒーみたいに白くまだらに照っていた。
 海沿いの道には民家がずっと続いていて、どの家もリデルの地元では考えられないほど庭が広かった。観光地だからだろうか街灯の数は多く、バケツリレーみたいにリデルの足元を照らしていて歩くのに不便を感じることはなかったけれど、時折すれ違う人はみなリデルと同じかそれよりも若い女の子で、リデルは気が滅入りそうだった。
 砂浜を左手に見ながら道沿いにしばらく歩くと、道路の右側に二十四時間営業のコンビニエンスストアが見えた。店先に置いてあるタワー型の灰皿の前で、煙草を咥えた小さな女の子と、頭の禿げかかった中年の男性が体を密着させて、お互いのいろいろな場所を触り合っていた。昼間からこんなのばっかり見せつけられてリデルはいよいようんざりしていた。せめて店の裏とか岩場の陰とか人に見られない場所でやればいいのにとリデルはすれ違いざまに横目で睨み付けたが、アベックは嫌らしい行為に夢中でまるで気付いていないみたいだった。
 レジでいつもの星印の煙草を買うと、アベックを無視しながら店を出て、店の前の道路を渡り、道に沿って両方向に果てなく続く砂浜へ下りた。たくさんの人間が這いずり回っていた昼間のやかましい光景とは打って変わって、波の音だけが漂う月明かりの海はとても綺麗で、彼に着いて来てよかったとこのとき初めて思った。
 リデルは波打ち際に砂の上に直に腰を下ろすと、サンダルの指先に触れるか触れないかのところまで寄せては返す波を見つめていた。背後をさっきのアベックがおそらくリデルと同じホテルに引き返していく声が聞こえ、彼らの声が聞こえなくなってから、リデルは携帯電話を取り出して姉が一人で暮らす実家に繋いだ。呼び出し音を七回聞いて電話を切ろうとしたところで受話器を取った音がした。
「はーい」
 姉の声は変な具合に陽気で、どうやらかなり飲んでいるようだった。
「もしもし、お姉ちゃん」
「リデルどうしたの、こんな時間に。ねえ、いま何時だと思ってるの。連絡しろとは言ったけど、まさかこんな夜遅くにかけてくるなんて、非常識にもほどが――」
「ごめんなさいお姉ちゃん。昼間は泳ぐのに夢中であたしったらうっかりしてたのよ。でも連絡しろっていうから、いまこうして電話してるわけ。遅くなったのは悪いと思ってるわ」
 大きめの波が打ち寄せて、海水がビーチサンダルの指先に触れた。寝る前だったので、足を濡らすと後始末が面倒だと思い、リデルは少し後ろに下がった。
「そうね、電話してくれただけでもありがたいと思うことにする。正直な話、九時を過ぎたころから、あんたからの連絡は九十九パーセント諦めてました。連絡が遅いのはいつものことだもの、怒ってないわよ。あんたが生まれた瞬間からの長い付き合いだ、さすがに寛大にもなるってものよね」
「そう。とにかく、悪いと思ってるわ。ねえお姉ちゃん、ところでもしかして、だいぶ飲んでるんじゃない?」
「ちょっとだけよ。ほら、この前あんたが帰ってきたとき、あんたの彼と三人でバーに行ったじゃない、あのとき飲んだのと同じくらい」
「お姉ちゃん、あたし百年前から口を酸っぱくして注意してるけど、お願いだから飲みすぎないでよ、体のために。もう若くなんかないんだから。もしお姉ちゃんがいつまでも若いつもりでいるんだったら、あたしより二十年以上早く死ぬことになるかもしれないわ」
「うるさいわねえ、わかってるわよ。お母さんに似てきたわね、あんた、ただし悪いところが。……それよりあんた、リデル、あんたの彼の調子はどうなの。彼、また女の子の写真撮ってるの、それともまさか――」
 それは、姉との会話でもっとも話題にしたくないことだった。リデルが電話を渋っていたのは泳ぐのに夢中だったからではなく、彼のことを根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で、リデルにとってどれほど避けたい話題であっても、姉が一番したいのもまた彼の話だったからだ。
「別に、まさかじゃないわよ。いつもみたいに写真を撮ってたわ。海にいた時間からして、少なくとも五百枚くらい撮ってたかな」
「そう、写真だけならいいんだけど……リデル、あんたそのこと本当だろうね、嘘ついたってわかるんだから。この前だってあんたは――」
 リデルは姉の言葉を遮るように、
「お姉ちゃん、彼はとってもスマートなカメラマンだったわよ。あのね、彼は被写体に一度だって手を出したことはないわ。彼はどこのビーチでも模範的なカメラマンよ。仕事ぶりを眺めてるだけで、あたしのアソコがヌレヌレになっちゃうくらい素敵だわ」
 姉は爆竹みたいな舌打ちをしてから、長いため息をつき、また小さな舌打ちをした。
「下品な言葉を使うのはよしなさい、リデル。あたしは冗談を言ってるわけじゃないの。第一、あんたはいつだって――」
「ええ、ええ、わかってる。ちゃんと聞こえてるわよ。そうね、ごめんなさい」
 リデルは受話器を遠ざけた。
「ごめんなさいって、あんた、ちょっと聞いてるの、リデル。彼がどんなに立派なカメラマンだったか、あたしは仕事を見たことないからわからないけど、彼の助手のひとが言うには、どうも彼はちょっと、何ていうか――」
「ええ、ええ。わかってるわ」
 リデルは立ち上がり、砂浜を歩き始めた。すぐに砂が足の裏とサンダルの間に入り込んできてげんなりしたが、清潔さはすっぱり諦めることにして、サンダルを脱いで片手に持った。砂浜を素足で歩くと、冷たい手が足の裏をくすぐっているみたいな感覚がして気持ちよかった。
「つまり彼はちょっと偏執的で、自分の仕事に没頭しすぎちゃうんだって、彼女は言っているわ。……ねえお姉ちゃん、あたしが彼女からこの文句を一日に何度聞かされるかわかるかしら。あたしが彼に、彼の行動について何か一言でも文句を言うたび、彼女がしゃしゃり出てきて彼を擁護するんだ。あたしからすれば、おかしいのは彼じゃなくて彼女のほうね。お姉ちゃんから改めておんなじセリフを聞かされるのはごめんだわ」
「ええ大変ね、それは悪かったわ。本当にね。それでリデル、結局のところ、彼はどうだったの。被写体に変なことはしなくても、例えば、あんたの迷惑になるような何か――」
「いいえ、何もしていないわ。いつも通り、写真を撮ってただけよ」
「まさか、あんたたち、一日中ビーチにいたの」
「ええ、あたしは午後はビーチサイドで本を読んでたけどね。彼はずっと写真を撮ってたわ。彼は……仕事一筋なところがあるから」
 助手のセリフを自分の口から繰り返したくなく、リデルは自分にとって気持ちのいい言葉を選んだ。
「ところであんた、助手の彼女のことだけど――」
「助手じゃなくて、イズミって名前があるわよ」
「そのイズミさんだけど、もう聞き飽きたかもしれないけどさ、やっぱり変だと思うの。だって四六時中、彼と――」
「お姉ちゃん、昔から何度も言っているけれど、何にも問題ないわ。イズミが彼と一緒にいるのは当たり前なの。だってイズミは仕事の助手なんだもの。彼女だってちゃんとお給料もらってやってることよ。彼、あんな仕事だけど、収入だけはトンデモナイのよ、知ってたかしら」
 数秒の間があって、受話器の向こうから、鼻から抜けるような鈍いため息が聞こえた。
「まあ、あんたがそんなふうに割り切れてるならいいんだけどね。でもあんたの口からイズミさんの話を聞くたびに気になっちゃうのよ。……ねえ、あんた、あたしの言いたいこと、わかるわよね」
「ええ、とってもよくわかるわ」
 姉の言葉がまた途切れた。リデルはさっき買った煙草の封を切って一本取り出すと、ライターで火をつけた。吹き出した白い煙が夜の闇に溶けていくのをじっと見つめる。
 ……大丈夫、イズミと彼が変な関係になるなんて絶対にない。イズミは変わり者だけど根はとってもいい人なのは知ってるし、彼も、付き合い始めて三年経った今でもあたしに首ったけだ。イズミだってあたしたちの関係を祝福してくれている。いつだってイズミはあたしと彼を応援してくれているのがはっきりとわかる。イズミはあたしが生きてきたなかで会った誰よりも純粋で誠実で信頼できる人だ。彼に話せないことでもイズミになら話せることもあるし、これまでもいろんな相談に乗ってもらった。イズミは鋭いアドバイスをくれるわけじゃないけど、余計な心配をしないで気軽に話を聞いてもらえる人がいるのって、それだけでとってもありがたいことだ。
 正直なところ、リデルは彼とイズミとの間を何度も怪しんだことがあった。彼女と出会う前から彼はイズミと一緒に仕事をしていたのだ。だから最初に見たとき、ふたりは恋人だと思った。しかしイズミにも彼にもその気がないことを、当のイズミの口から聞かされて、それならばとリデルは彼にプロポーズする決心をしたのだった。
「でも事実として、あんたよりイズミさんと一緒にいる時間のほうが長いとしたら――これから先もそういう生活が続くとしたら、万が一ってこともないとは限らないじゃない。もしそうなったとき、あんたがヤケ起こさなきゃいいけど。あたしはいまんとこ、それが一番の心配事なのよ」
「うん、わかってるよ、ありがとう」
「まあ何にしろ、あんたが元気で、彼も無事ならそれでいいんだ。リデル、無理してないかい。本当に困ったことはないんだろうね」
「ええ、何もないわ。……お姉ちゃん、そろそろ眠いんじゃない。お酒もかなり飲んでるでしょうに?」
「ちょっとだけよ。でも、眠いのは確かね。それもこれもあんたが――」
「そうね、ごめんなさい。じゃあ切るわね、あたしももう寝たいから。いま外にいて、ちょっとだけ夜風が涼しすぎるんだ。また明日電話するわ」
「明日は必ず夕方には連絡しなさいよ。いつものこととはいえ、今日みたいな時間に電話してこられると困るのよ。あたしにも生活習慣ってものがあるから、あんたのせいで寝るのが遅くなると、あたしは朝早いんだから、起きるのがとんでもなく――」
「ええ、ごめんなさい。もう二度としないわ。じゃあねお姉ちゃん」
 リデルは電話を切った。立ち上がり、煙草を咥えたままホテルに向かって歩き出す。


「海に入らないの、お兄ちゃん」
 カメラを構えた男は、聞き覚えのある声に、ビーチサンダルを砂にめり込ませながらゆっくり振り返った。一メートルほど後ろで男を見上げているのは、黄色とオレンジのチェック模様の、フリル付きのセパレートの水着を着た、小学校低学年くらいの小さな女の子。男はカメラを持ったまま、微笑みながら女の子を見つめ返した。
「ねえ、海には入らないの。せっかくの海水浴でしょう?」
「海水浴じゃないんだな、お嬢ちゃん」
「じゃあ、お二人さんのデートはただのお散歩なの?」
 そう言って、男の隣に無言で立っている女を見る。女はB5サイズの大学ノートと黒のボールペンを携えていた。海で泳ぐ大勢の人影を観察していて、自分が少女の視線の的になっていることにまるで気づいていなかった。
「いいや、実はデートでもない。お仕事にきてるんだよ。こっちの彼女は恋人じゃなくて僕の助手。僕の恋人は――というより妻は、今頃波に揉まれながら嬉しい悲鳴を上げてるさ。……ねえイズミ、イズミ。聞こえてる?」
「え?」
 イズミと呼ばれた女は、呆けたような顔で男を見返し、それから男の右手の人差し指が指し示す、自分を見上げている少女にようやく気がついた。
「ああ、ごめんなさい。ちょっとぼうっとしていて。それで、この女の子がどうかしたの」
「被写体」
「もちろんそうですよね。カメラの準備は?」
「もうできてるよ。口調からして、たぶん養殖少女だ。格別に精神年齢の低い成人女性ということもありうるけれど」
「それか、アンドロイドとか」
 イズミは真面目な顔で言ったが、男は目を丸くして、そして大笑いした。
「お兄ちゃん、大事なお話?」
 少女は困った顔をして、男と女の顔を交互に見た。
「いいや、違うよ。お嬢ちゃんのお名前は?」
「シヴィラ」
「シヴィラちゃん。いい名前だね。お母さんはどこ?」
「あたしはひとりよ」
 それを聞いて、少女に向けられた男の表情は喜びと期待で子供のように輝いた。
「さあイズミ、仕事だ! いつものようにスマートに、デリケートに頼むよ」
 イズミは頷く。男とイズミを交互に見るシヴィラに歩み寄り、水着のトップスをおもむろにまくり上げ、ふたつの可愛らしい桃色の乳首を露出させた。シヴィラはイズミの突然の淫行にも抵抗することなくなされるがままになっている。イズミが右側の突起をつまむと、シヴィラの口から反射的に、艶めかしい吐息が漏れる。歳に似合わない表情に男の胸は高鳴った。男はしゃがみ込んでふたりに近づき、シヴィラの表情、仕草、全身各所の筋肉の反応を的確に写真に収める。イズミは右手を乳首から離し、割れ目を中心にすでに大きな染みを作っているボトムスに潜り込ませて、膣口を探り当て、人差し指をあてがう。少女とは思えない拡張具合に一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに平静を取り戻し、十分に濡れていた膣に人差し指を挿入して蠕動させると、少女の膝ががくがくと震え出した。しばらく続けていると少女は前のめりに倒れそうになり、イズミは圧し掛かってくる少女の体を左手で支えながら、右手をさらに高速で往復させる。淫猥な音が波の音よりもふたりの耳に大きく聞こえる。
「んっんっんっあっあっあっあっあっあっあっ……あ、あ、あ、あっ!」
 シヴィラはぶるぶると全身を震わせ、絶頂に達した。イズミの腕を刺激臭のする液体が大量に伝い、肘から滴り落ちる。
「ふぅ……。膣の開発段階は、三段階目といったところでしょうか。経験人数はおよそ百人ですね」
「ご苦労様。名前と外観の特徴と、あとこれ、ノートに貼っておいて」
 男は腰のポーチからインスタントカメラを取り出し、肩で息をしている少女の真っ赤な顔を間近で数枚撮影して、出てきた写真をイズミに渡した。二十秒ほど待つと幼い娼婦の蠱惑的な表情が浮かび上がる。イズミはノートの見開きの右側に、撮影した写真をセロハンテープで並べて留めた。見開きの左側には今日の日付と少女の名前『シヴィラ』を記録し、少女を見下ろしながらしばらくペンを走らせた。
「さ、シヴィラちゃんもお疲れさん。ご褒美に何か買ってあげようか?」
「……お兄ちゃん、気持ちいいよお……もっと、もっとしてよお……」
 シヴィラはイズミの肩に頭をもたせながら、うつろな目でそう呟いている。だらしなく開けられた口元から涎が垂れて、イズミの白いシャツに染みを作っていた。
「ははは。やっぱり一旦スイッチ入るとこの子たちは駄目だな。見てごらんこの顔、完璧にイかれちゃってる。行こう、イズミ。今日のノルマはあと二十人だよ、張り切っていこう」
「ずいぶん調子いいんですね。昨日の不調が嘘みたい」
「まあね。それに、今日は養殖幼女にうってつけの日だから。昨日駄目だったぶんを取り戻さないといけないって事情もあるしね」
「振り回されるこっちは大変ですよ、まったく」
 イズミはぐったりしているシヴィラを砂の上にそっと寝かせて、男の後ろに付いた。
 ふたりはまた砂浜を徘徊し始めた。
 ふたりの仕事は、日が暮れて、少女たちがどこへともわからないどこかへ立ち去ると打ち切られる。いつものごとく、何日間の滞在になるのか予定は立たなかったが、男も助手も仕事にこの上ない満足感を覚えていた。男の妻――リデルも、昼夜の別なくいたるところで繰り広げられる、少女と男たちとの醜悪な交尾の光景さえなければ、最高級のホテルの贅沢な生活に悪い気はしていなかった。