チクル妄想工房

サークル「小公園」の仮拠点です。ガムベースの作ったものを載せたり、他人の創作物への感想を書いたりしています。

バーチャル美少女性を損なう

物質世界での生活が忙しくなったこと、いつも一緒に遊んでいた友人たちが忙しくなってあまり会えなくなったことで、VRChatに入る頻度が少なくなっています。そのためか、VRChatでの自己認識がちょっと崩れかけてきているのでしょうか。さいきん風邪をひいたのをきっかけに、そして思いのほか長引いていることもあり、ボイスチェンジャーを外して過ごすことが増えました。また、BOOTHで購入したいちごうさぎちゃんのアバターが気に入ってしまって、そちらのアバターを使う頻度もかなり多くなりました。
結果、「ハッカドール1号のアバターで、ボイスチェンジャーを使って、女の子っぽいしぐさで生きる」という、ずっと貫いてきた態度が、かなり希薄になっているという状況です。かといって、ハッカドール1号の身体が精神から離れてしまったのかというとそういうわけでもないようで、ただ、他のアバターを身に着けること、女の子の姿でいながら男の声で喋ること……VR世界で、非女の子性を意図的に身にまとうことへの抵抗などが、薄れてしまったのを自覚しています。「ハッカドール1号のアバターで、ボイスチェンジャーを使って、女の子っぽいしぐさで生きる」のではないふるまいをするわたしもまた、わたしである、という事実を、理屈からのみでなく実感からも肯定せざるをえないのです。

ハッカドールちゃんの身体で生きることには、かなり慣れたはずです。しかし、自分のものとして慣れてしまったこと、そしてしばらく身に着けていなかったことによって、それが借り物の身体で、大切に扱わなければいけないものであるという意識が薄れているのかもしれません。美少女としての自己の分身ではなく単に「モノ」として見てしまう視点が強くなったのか、だからある程度好きにしていいものだという意識が生まれつつあるのか、ちょっと乱雑に扱ってしまう面が出てきている気がします。
以前は、下ネタを過度に避けたり、バイノーラルごっこをして友人たちが楽しんでくれたのを、後になって思い返して、性的対象として意識されたのだと感じて悲しい気分になったりと、かなりナイーブな状態だったのですが、VRでしばらく生きるうちにそういった性的なネタや、美少女ではない自分としてのふるまいへの抵抗が小さくなっていき、今はバーチャル美少女としてはまるで失格だと思います。

そして、そうしたふるまいのうちには、他の美少女アバターを所有することだとか、男の声で喋ることも含まれるのではないかと、わたしは考えています。以前からハッカドール1号のほかにも、モンスターのアバターを持っていましたが、モンスターのアバターを身にまとうことと美少女のアバターを身にまとうことは意味が違います。ハッカドール1号をまとうわたしは美少女ですが、モンスターのアバターをまとうわたしは美少女ではありません。
だからこそ、他の美少女アバターに「これもまた美少女としてのわたしでありうる」という意識を持ち始めていることは、ハッカドール1号の身体を、語弊はあるのでしょうが「乱雑に扱う」ことを意味すると思っています。わたし自身として一度認識したものを、取り外して、別のもの付け替えるということ。いちごうさぎちゃんにアバターとして愛着を抱くということは、VRアバターが自分の一部でありながらも取り換え可能であるという事実を、受け入れてしまうということです。

声もそうでしょう。ハッカドール1号のアバターと、MorphVOXなり恋声なりのボイスチェンジャーの声は、セットになって、VRChatでのわたしのアイデンティティでした。そうすることでわたしは紛れもない美少女としての生を遂行していました。少なくともそのつもりでした。
男の声で喋ることはそれを一発で崩してしまいます。いままで美少女の声(かどうか知らないけどボイスチェンジャーの声のことです)をもって、わたしの内にわたしという個性が形成されていたのが、声が男であったとしてもなおその人物がわたしであるというなら、わたしは美少女ではないことになる(美少女の声で喋ろうという態度の話であって、ボイスチェンジャーごとの声質の違いや喋りの習熟は問題ではない)。ねこます氏が体現したような、最初から男の声で喋り、男であるけれども可愛い、美少女であるという高度な文脈とは違って、わたしは美少女の姿、美少女の声、美少女のふるまいでもって、美少女であろうとしたのですし、それがわたしにとってはVRChatでのわたしという個性でした。だから男の声で喋ることに慣れてしまうということは、わたしの精神的美少女性が失われたことを意味するのです。

余談ですが、ブログやTwitterのわたしとVRChatのわたしを紐づけることも、またVRChatのわたしの美少女性を損なうことになるでしょう。ブログやTwitterのわたしはまったく美少女ではないからです。
Twitterにはワールドやアバターの制作状況をツイートしたり、VRChatの画像や動画をアップロードしたりしていますし、それをTogetterにもまとめていますから、VRChatのGUMBASEに関係する記録として情報を得ることはできます。しかし、それらは単に記録として見るように書かれてはおらず、明らかにVRChatのGUMBASEが投稿者本人であるように読めます。
ブログやTwitterに投稿しているGUMBASEと、VRChatのGUMBASEと同一人物であるとすれば……要するに、VRChatの外側に「魂」としてのGUMBASEの「本体」が存在するという前提で他所の投稿をみるなら、VRChatのGUMBASEは美少女ではないことになってしまいます。

もちろん、物質世界のわたしは、事実全然美少女ではありません。